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不器用なふたり トリプルバトルAfter the Love

Author: 相沢蒼依
last update publish date: 2026-01-25 12:38:46

 無事に帰ることができたお祝いをするために、次の日の仕事終わりに走り屋のリーダーをしている友人が経営している焼き鳥屋へ、橋本と飲みに行った。

 残念ながら翌日も仕事がある宮本は、安定のソフトドリンクで乾杯。橋本はわざわざ有給をとったとのことで、中ジョッキの生ビールで乾杯した。

 よく食べよく飲みよく喋り――互いの無事を確かめ合うように、楽しいひとときを過ごした。あまりに楽しかったのか、橋本の飲みっぷりがいつも以上だったこともあり、べろんべろんに酔っぱらっていた。

 泥酔状態で歩けなくなった橋本を、仕方なく(いや、むしろ喜んで)宮本が背負って自宅に連れ帰ったのだった。

「陽さん大丈夫ですか? 気分は悪くないですか?」

 前にも似たようなことがあったのを思い出しながら、ベッドに横たえさせて話しかけると、目が覚めたらしい橋本はニッコリ微笑む。

「らいじょうぶら。ましゃきが優しくしてくれたかりゃ、全然平気」

 呂律が回らない橋本の様子に、嫌な予感のクラクションが宮本の脳内で鳴った。良い予感は大抵外れるのに、悪い予感というものは不思議と当たる確率が高い。

「陽さんってば相当酔ってるみたいですか
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  • BL小説短編集   第20章:すれ違う気持ち3

    午前中の授業は、ほとんど頭に入らなかった。黒板を写しているはずなのに、ノートの文字は妙に歪んでいる。 気づけば背後にある隣のクラスに、意識を飛ばしてしまった。(蓮は今、どんな気持ちで授業を受けているのだろう。彼は取り繕うのがうまいから、俺みたいに落ち着きをなくさないで、きっとノートもキレイに取っているはず――それでも俺と話すまでは、心中穏やかでいられないに違いない) 昼休みのチャイムが鳴る。林田に呼びかけられたが「ごめん、用事ある」とだけ言って、足早に廊下へ出た。廊下を歩く足音がやけに大きく響いて、胸の鼓動と混じり合う。手のひらはじっとり汗ばんで、握ったままの弁当袋が滑り落ちそうだった。 隣のクラスに入り、氷室に視線を飛ばす。まだ机の上に弁当は出していなかった。彼は俺に気づき、少し驚いたように目を上げる。「ここで一緒に……いい?」 急いで近づいてかけた声が、思っていたより小さいものになってしまった。「ああ」 向かい合うと、教室のざわめきが遠のく。辺りに漂う昼の匂い――弁当の温かい香りや、机に反射する光までやけに鮮明に感じられた。「蓮あのね、昨日はごめん。蓮を困らせた気がして」 そのひと言で、俺を見つめる瞳が微かに揺れた。俺が謝ったことで、氷室の肩の力がほんの少しだけ抜けたのがわかる。「……困らせたのは、大きな声を出した俺のほうだ」 低く落ちる声。視線は机の上に落ちたままだった。「昨日、奏に言いたいことが他にもあった。でも……うまく言葉にならなかった」 胸が跳ねる。答えが近づいている予感に、無意識に前のめりになった。 沈黙――時計の秒針と、教室の笑い声がやけに遠くで混じり合う。「……奏」 静かな口調で名前を呼ばれ、俺はそっと頷く。「俺は、おまえを信じてる。けど――」 氷室は唇を噛み、まぶたを伏せる。そこから続く言葉を待つ数秒が、永遠にも思えた。教室のざわめきが遠のき、心臓の音だけが耳を塞ぐ。 俺から言葉を促すと、彼は短く息をはいた。「神崎の言葉が……まだ頭から離れない」 小さな声なのに、まっすぐ胸に落ちてくる。やっぱり、あの日の影はまだ消えていなかった。「蓮……」 俺が言葉を探すより早く、氷室がほほ笑んだ。けれどそれは、痛みを隠すための笑顔だった。「変だよな。俺らのことは俺らが一番わかってるはずなのに……神崎のあん

  • BL小説短編集   第20章:すれ違う気持ち2

    いつものように氷室に見送られ、自宅に到着。部屋の灯りをつけた瞬間、見慣れた景色がやけに白々しく目に映った。机に置いたスクールバッグが、軽い音を立てて沈む。その中には、今日一日の重さが全部詰まっている気がした。 制服のままベッドに腰を下ろし、スマホを手に取る。メッセージアプリに、氷室からの連絡はない。送ろうと思えば俺からすぐに送れるのに、指は画面の上で固まったままだった。(蓮のあの顔……忘れられない) 用事があると言っていたのに、急いで駆けつけてくれた氷室の顔。神崎の言葉を聞いたときの彼の瞳。怒りというより、必死になにかを押し殺していた色が宿っていた――それが頭に焼き付いて離れない。 俺は氷室にとって、安心できる存在でいたい。ドジばかりの自分でも、氷室が不安に沈んだら真っ先に手を差し伸べられる、しっかりした存在でありたかった。 だけど今日の俺は、それを受け止めきれずに黙ってしまった。あの沈黙が、彼の中の影を濃くしたんじゃないか――そんな気がしてならない。 窓の外、遠くで電車が通り過ぎる音がする。本来なら心を落ち着けてくれるはずなのに、今夜は逆に胸の奥をざわつかせるだけだった。(ぐだぐだ考えてもしょうがない……明日、ちゃんと話そう) そう決めてスマホを机に置く。ベッドに横たわっても、天井の木目が線となって眼に焼きつき、何度も数え直してはため息が漏れる。そのたびに時計の針の音が耳に刺さり、眠りの扉はどんどん遠ざかっていった。 翌朝、いつもより早く家を出た。眠れなかったせいであくびが止まらない。まだ夜の冷たさを僅かに残した空気が、肺の奥まで刺さるように入り込む。 校門に近づくと、すでに氷室がいた。門柱にもたれ、スマホをぼんやり見つめる氷室の顔は、まぶたの下に薄い影を宿したものだった。夜を越えても休めなかった証のように見えて、胸がひどく締めつけられる。「蓮……おはよう」 俺の声に、氷室は反射的に顔を上げる。いつもどおりの笑み――そう見えた。だが目の奥には、薄い膜のような硬さが残っている。「おはよう。早いな」 「なんか……眠れなくて」 他愛のない会話を交わしながら、並んで昇降口へ向かう。手を伸ばせば届く距離なのに、その間に透明で冷たい壁が立ちはだかっているようだった。 靴を履き替えるとき、氷室がふと俺を見た。その視線とぶつかった瞬間、昨日の影

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    門をくぐった瞬間、いくつもの視線が俺をかすめた。昨日まではただのざわめきに過ぎなかったものが、今日はひとつひとつの視線が俺を値踏みするようで――そこに神崎の眼差しが紛れ込んでいる気がしてならなかった。 昇降口の前で、奏がぱっと笑顔を咲かせ、大きく手を振った。奏の笑顔は太陽みたいに変わらず眩しい。その光が嬉しいのに、胸のどこかがちくりと痛む。まるでその笑顔が俺ではなく、神崎のほうを照らしてしまうんじゃないかと、ありもしない想像が勝手に膨らんでいく。『――君が大事にしてる奏は、俺が一番よく知ってる。君よりも、ね』 不意打ちのように、その言葉は油断していた心に鋭く刺さった。俺は僅かに瞳を細め、呼吸を整えてから奏に歩み寄る。「おはよう」 「おはよ! 今日は少し早いね」 他愛もないやり取り。それなのに、自分が無理に声を軽くしていることを感じていた。奏の表情には、昨日の影がまったくない。それが救いなのか、それとも別のものなのか、答えはまだ出ない。 教室に入ると、同じクラスの神崎がふと視線を上げ、俺と目が合った瞬間、ほんの僅かに口元を緩めた。挑発でも嘲笑でもない。むしろ優しい笑みに近いその表情が、かえって俺の胸をざわつかせる。 休み時間。隣のクラスから奏がわざわざやって来て、机に腰をかける。週末の予定を楽しそうに話しはじめ、その声は本当に嬉しそうで――だからこそ、俺はあえて言葉を飲み込んだ。 神経質になっている俺が今ここでなにかを言えば、それは間違いなく棘になる。(……奏を守るって決めたのに。神崎に言われたたったひと言で、どうしてこんなに動揺しているのだろうか) 窓の外、風が校庭の砂をさらって舞い上げる。その砂は舞い散りながら、俺の胸の奥にも静かに降り積もっていく。気づけば息をするたび、胸の奥でざらついた重さが増していった。 次の日の昼休み、購買で買ったパンを手に教室へ戻ると、窓際の自分の席に奏が座っていた。机に肘をつき、窓の外をぼんやりと眺めている。その横顔はやけに無防備で、見ているだけで胸の奥が温かくなる――はずだった。けれど今はその無防備さが、俺の届かない誰かに開かれてしまうのではないかと、不意に不安を煽った。 その場で俺の足は止まり、不安で胸の奥が小さく揺れる。奏の視線の先、グラウンドに神崎が立っていた。偶然そこにいるようでいて、どこかでこち

  • BL小説短編集   第19章:揺らぐ輪郭

    *** 奏の肩を抱きしめ、夜の街を歩く俺たちの足音が、やけに大きく耳に残る。街灯に揺れる影が、俺と奏を重ねたかと思うと、ふいに離れていった。神崎の声はもう遠くに消えたはずなのに、胸の奥ではまだ低く頭の中を反響する。『君が大事にしてる奏は、俺が一番よく知ってる。君よりも、ね』 その言葉が、俺の中に眠っていた感情を静かに呼び起こす。それは嫉妬でも警戒でもない。もっと深く、触れれば形を失うような、得体の知れない不安だった。 隣を歩く奏は気を遣っているのか、何事もなかったように小さな話題を振ってくる。けれど俺の耳は、その声を正しく拾えない。まるで彼の言葉の上に、神崎の声が薄くかぶさっているみたいだった。 あの日の記憶が不意に蘇る。中学の頃、信じていた誰かに裏切られた夜。理由も告げられず、ただ距離を取られ、気づけば「知らない過去」を他人から聞かされたあの息苦しさ――。「……蓮?」 奏の声で現実に引き戻される。気づけば立ち止まっていて、目の前にある信号の青が何度も点滅を繰り返していた。「ああ……悪い」 歩き出しながら、視線を前に固定する。肩から移動させて握った奏の手を、ぎゅっと握りしめる。けれど指先に宿る力は、自分でもなかなか抑えられなかった。奏は俺のものだと、叫びたい衝動が喉に張り付く。(神崎がなにを知っていようと関係ない。奏は今、俺の隣にいる――) そう繰り返すたびに、胸の奥で不安がゆっくりと形を持っていく。しかも俺は知っていた。一度芽吹いた影は、決して簡単には消えないということを。 帰り道の終わり、家の前で奏が笑って「また明日」と言う。その言葉の明日が、同じ色をしている保証はどこにもない。俺も同じようにほほ笑み返したが、その笑みの奥に隠した重さを、奏はまだ知らない。

  • BL小説短編集   第18章:心に刺さった棘2

    午後の授業が終わっても、頭の中は霞がかったままだった。黒板を見つめているはずなのに、視線はどこにも焦点を合わせられず、ペン先がノートの端を何度も往復した。 耳の奥では、あの声がまだ残響している。『――氷室に似合うのは、俺のほうだと思わない?』 柔らかく笑いながら、それでいて逃げ場のない間を空けて放たれた健ちゃんの声。音の輪郭まで、今もはっきりと覚えている。 帰りのチャイムが鳴り、クラスの空気が一気に解放されても、その言葉だけは色のついた埃のように視界から離れなかった。 廊下の向こう、扉の窓越しに氷室の姿を見つけた瞬間、胸が跳ねたことで反射的に足が彼を追いかける。声をかければ――氷室はきっと聞いてくれるだろう。「そんなこと、気にするな」と笑ってくれるかもしれない。(でも、それを聞いた蓮はどう思う? 健ちゃんの声に潜んだ境界線を、蓮も感じ取ってしまうのだろうか) まとまらない考えが頭の中を支配して足が自然と止まり、手のひらが汗ばんでくる。急いでいた足を突如止めたせいで、上靴から変な音が鳴った。「あ……奏?」 物音に振り返った氷室が、不思議そうに首を傾げる。変わらぬ低い声、変わらぬ距離感――なのに、今日はそのすべてがどこか怖かった。「蓮……いや、なんでもない」 そう答えた瞬間、情けなさが胸を締めつける。話すべきだとわかっているのに、言葉にしたらなにかが壊れそうで――。 氷室はそれ以上追及せず、俺の肩を叩いて歩くことを促した。重たい足を動かしたら、俺の歩幅に合わせて氷室も歩き出す。夕陽が廊下を橙に染め、伸びたふたりの影が床を滑っていく。その影が、ほんの少しずつ離れていくように見えた。(俺……このままで、本当にいいのかな) 問いだけを胸に抱えたまま、下駄箱へ。靴を履き替える間も、氷室の横顔を盗み見ては迷いを繰り返す。結局、切り出せぬまま夕暮れの校門をくぐった。 秋の帰り道。夕陽の色は橙から紫に変わり、落ち葉を踏むたびにざくりと乾いた音が響いた。氷室と並ぶこの時間は、いつもなら心地よいはずなのに、今日に限って息が詰まった。「奏……やっぱり、なにかあったんだな」 氷室が不意に足を止めた。夕陽が彼の横顔を金色に縁取り、その瞳だけが真っ直ぐに俺を射抜く。「顔に出てる。隠すのが下手なのは、奏のいいところでもあるけれど」 冗談めいた氷室の口調の奥

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